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大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)44号 判決

原告

川中清三

右訴訟代理人

上田稔

被告

大阪法務局北出張所登記官

徳田博

右指定代理人

古城毅

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

被告が原告に対してした、別紙目録記載物件の所有権移転登記につき課税されるべき登録免許税額を金二、二五五、五〇〇円とする認定処分のうち、金一、〇四三、〇〇〇円を超える部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前)

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(本案)

主文同旨。

第二 当事者の主張〈以下略〉

理由

(被告の本案前の主張についての判断)

一国税通則法(昭和四六年法律第八九号による改正前のもの。以下同じ。)一五条二項一一号によれば、登録免許税の納税義務は、登記、登録などの時に成立し、同法一五条三項五号によれば、その税額は、右納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定することとされている。しかしながら、登録免許税法九条、同法別表第一によれば、申請の件数、不動産の筆数等を課税標準とし、右国税通則法に規定されているとおり、特別の手続を要しないで、納税義務の成立と同時に税額が確定するものもあるが、登録免許税法一〇条一項、同法別表第一の第一号には、不動産所有権移転登記の場合の課税標準は当該登記の時における不動産の価格による旨規定されており、不動産の価額とは、当該不動産の客観的な交換価値をあらわす時価と解すべきであるから、この場合は、右国税通則法の規定にかかわらず、その時価を何らかの方法で確定しなければ、課税標準および税額が具体的に確定しないといわねばならない。ところで登録免許税法附則七条、同法施行令附則三項によれば、右の場合、当該不動産に台帳価格があるときには、登記申請日が一月一日から三月三一日までの場合には前年一二月三一日現在の、四月一日から一二月三一日までの場合にはその年の一月一日現在における各台帳価格を課税標準とすることができるとされているけれども、右規定から直ちに、課税標準および税額が確定しているとはいえないし、また登記申請者または登記嘱託をした官公署が、登記申請書または登記嘱託書に、当該不動産の台帳価格を課税標準として記載するとともに、登録免許税額を記載し(不動産登記法二五条、同法施行規則三八条)、納税義務者がこれに基づく税額を納付したからといつて(登録免許税法二三条)、これによつて課税標準および税額が具体的に確定したということができない。なぜなら、同法附則七条は、台帳価格を基礎として政令で定める価格によることができると規定し、必ずしも台帳価格によらねばならないとは規定していないし、たとえ当事者が台帳価格を課税標準として選択しても登記官は、同法施行令附則四項により、当該不動産について、増築、改築、損壊、地目の交換その他これらに類する特別の事情(以下これらを特別事情という)の有無を審査し、これがある場合には、台帳価格を基礎としつつ、当該事情を考慮して課税標準価格を認定する権限を有しているのである。したがつて、登記官によつて、右特別事情の有無が検討され、それが存在しないことが明らかとなり、台帳価格を課税標準とすることが正当であると認定されるまでは、課税標準および税額は不確定の状態にあるといわなければならないからである。

もつとも、右場合特別事情が存在しないときには、登記官は、登記申請書または登記嘱託書に記載された課税標準および税額を正当とする明示の処分をしないであろうが、実質的にはこれを正当と認定しているのであるから、この場合、形式的な面だけをとらえて、登記官の課税標準および税額の認定処分が存在しないと解すべきではなく、黙示による課税標準および税額の認定処分があつたものと解するのを相当とし、この黙示の認定処分により課税標準および税額が確定するというべきである。そして、登記官による課税標準および税額に関する明示の認定処分がなされずに、登記がなされた場合は、常に、当事者の選択した課税標準およびこれにもとづく税額を正当と認める旨の登記官による黙示の認定処分があつたとみるべきである。

もし、右の場合に、形式的な面のみをとらえて、登記官による課税標準および税額の認定処分が存在しないとするならば、当該不動産の時価が、納税者の主観では特別事情により、台帳価格よりも著しく低額の場合であるにもかかわらず、官公署が納税義務者と見解を異にし、登記嘱託書に台帳価格を課税評準として記載した場合(この場合納義務者の見解をこれに反映させることは法的に保障されていない)、納税義務者においても、登記を急ぐ関係上、やむなくこれに従わざるをえず、これにもとずく税額を納付し、登記官においても特別事情が存在しないと判断して、これらを相当と認めた場合において、納税者の救済方法としては、登録免許税法三一条二項により、登記機関に対し、過誤納金の還付につき、納税地の所轄税務署長に通知することを請求し、この請求が却下された場合にはじめてこの却下処分を、審査請求および行政事件訴訟の対象とする方途が考えられる。しかしながら、この場合の実質的な争点は、登記官による黙示の課税標準および税額の認定処分の当否であるから、これを不動産登記法一五二条による審査請求の対象とすることは同法の予想するところではなく、むしろ、このような迂路をたどることなく、右黙示の認定処分をもつて、直接国税不服審判所長に対する審査請求の対象となしうる方途を認めることが、国税通則法七五条一項の趣旨に適合するし、このように解することにより登録免許税法二六条一項の規定による登記機関の課税標準および税額についての明示の認定処分(当該不動産につき台帳価格がない場合、台帳価格があつても特別事情がある場合の登記官の課税標準および税額の認定(同法施行令附則三、四項)もこれにあたる)に不服がある場合に、これを直接、国税不服審判長に対する審査請求および行政事件訴訟の対象となしうること(国税通則法七五条一項五号、一一四条)との間に均衡がえられるであろう(いいかえれば、登記官の課税標準および税額についての明示の認定処分がなされた場合と、黙示の認定処分がなされた場合の争訟方法に関し、両者を別異に取扱わねばならない合理的理由を見出し難いのである)。

二そこで右に説示したところを本件にあてはめて検討を加える。

〈証拠〉を総合すると、事実の経過は次のとおりである。

原告は昭和四五年二月五日、大阪地方裁判所昭和四一一年(ケ)第二二二号不動産競売事件において、本件物件を代金一二、〇一〇、〇〇〇円で競落し、同日競落許可決定を受け、同裁判所から、その所有権移転登記に要する登録免許税額が、本件物件の昭和四四年度の台帳価格金一七、〇五一、〇〇〇円の千分の五十(登録免許税法施行令附則三項一号、同法別表第一号(二)二)にあたる金八五二、五〇〇円であり、これを国に納付するよう指示されたのに右納付を遅延し、漸く同年五月二日に至り、右金額を納付しようとしたところ、同法施行令附則三項二号により、右昭和四四年度の台帳価格を課税標準とすることができなくなり、同裁判所から、あらためて本件物件の昭和四五年度の台帳価格金四五、一一〇、六〇〇円の千分の五十にあたる金二、二五五、五〇〇円を納付するように指示を受けた。原告は、右台帳価格が競落価格よりも高額であるためこれに不服であつたが、所有権移転登記を急ぐ事情もあつて右税額を国に納付した。そこで同裁判所は、同四五年八月二四日、被告に対し、右課税標準および税額を記載した登記嘱託書と、右税額納付の領収証書とを提出し、被告において同日、これを受理したうえ、課税標準および税額につき明示の認定処分をすることなく、原告に対する本件物件の所有権移登記を了した。

以上の事実を前示の説示に照せば、被告は右同日、本件物件の所有権移転登記のための登録免許税の課税標準を金四五、一一〇、六〇〇円とし、その税額を金二、二五五、五〇〇円とする黙示の認定処分(以下本件認定処分という)をしたといわねばならない。

したがつて、被告の本案前の主張は採用できない。

(本案についての判断)

一原告が、昭和四五年一一月三〇日、大阪国税不服審判所長に対して、被告のした本件認定処分につき審査請求をして棄却された事実は当事者間に争いがない。

二そこで以下本件認定処分の適否について検討する。

1  原告は、台帳価格の評価替は、地方公共団体の長の行政処分であるからこれによつて税額が増加する結果になるのは、憲法八四条に規定する租税法律主義に違反すると主張する。しかし、前示の事実経過によれば被告の本件認定処分は、登録免許税法一〇条一項、ならびに同法附則七条、およびこれによる委任命令たる同法施行令附則三項二号にもとづいていることが明らかであり、本件物件の昭和四五年度の台帳価格を課税標準とすることは法令に根拠を有するのであるから、原告の右主張は到底採用できない。

2  また原告は、本件認定処分には、課税標準および税額を過大に認定した違法がある旨主張するが、一般に台帳価格は特別の事情のない限り、時価よりも低額であることは公知の事実であり、しかも本件登記時における本件物件の台帳価格が、当時の時価(競落価格は偶然の事情によつて定まることが多く、しかも時価より低額であることは当裁判所にけんちょであるからこれをもつて客観的な時価と解することは妥当でない)よりも高額であるような特別事情は、本件に表われた全証拠によつても見出し難く、また右台帳価格が前年度のそれに比し、約2.7倍になることも近時の地価の上昇傾向に照しつ、ありうることであるから、このことをもつて、右台帳価格が時価よりも高額であるとはいえず、結局被告の本件認定処分による課税標準および税額は相当であるというべきである。

三以上によれば、被告のした本件認定処分は適法であり、原告の被告に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(下出義明 藤井正雄 石井彦寿)

物件目録〈略〉

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